中年のおじさんと若い女性のメロドラマではありません!
人間が持つ無償の愛がテーマです!!
もっと早く観ておくべきドラマであったと反省しているのと同時に、自分と同じように、タイトル名にバイアスがかかり、見るのを躊躇っているかたにはぜひお勧めしたいドラマです。
あらすじ
建設会社で働くドンフン(イ・ソンギュン)に、ある日、差出人不明の5000万ウォンの商品券が届く。直前に母から、無職の長男のために、家を売って食堂をやらせたいと相談されたドンフンは、それを受け取ってしまう。翌日、ドンフンは匿名の告発を受けた監査部から調査を受けることに。しかし、商品券は彼の机からこつ然と消えており、ドンフンは答えに窮する。すると、突如商品券がビルのゴミ置き場から見つかる。ドンフンは「5000万の商品券を捨てた男」として社内で英雄扱いされることに。商品券を捨てたのは契約社員のイ・ジアン(IU/アイユー)だと知ったドンフンは、自分が捨てたことにしてほしいと彼女に頼む。すると、ジアンから交換条件として1ヶ月間食事をおごってほしいと言われてしまう。実は、ジアンは、ドンフンの妻ユニ(イ・ジア)と不倫関係にある社長ト・ジュニョン(キム・ヨンミン)からお金をもらうため、ドンフンを陥れようとしていた。そうとは知らないドンフンは、ジアンに関わるうちに彼女が多額の借金を抱えていることや、孤独な人生を歩んできたことを知り、少しずつジアンを助けるようになる。そんなドンフンの優しさに触れるたびに、ジアンの心は少しずつ揺らぎはじめ・・・。
https://filmarks.com/dramas/6339/9049
原題:나의 아저씨
ジャンル:ヒーリングストーリー
放送開始:2018年3月
放送分:約90分(全16話)
出演者:イ・ソンギュン、イ・ジウン(IU)

感想
総評
タイトル名とサムネイルのイメージ画像から中年おじさんと若い女性が何らかの理由で好きになるラブロマンスなのか?と思い、なかなか手を出せずにいました。レビューサイトでもジャンルがラブストーリと分類されていたのもあり・・・。
いろんな方がこのドラマのレビューで述べておられますが、
とにかく暗い!気持ちが萎えるほど世知辛い世の中を知らしめるシーン、1話にある暴力シーンにドン引き、など、16話まで見終える自信がありませんでした。しかし絶対に最後まで見た方がよいというアドバイスを信じて、3話まで我慢をして視聴していたら、その後は沼にはまり、9話からは毎話、頭痛がするほど泣いてしまいました。当初の予想を裏切られ、自分の中でも最高のドラマになりました。
ドラマの序盤は主人公・ドンフンの会社に勤務する派遣社員・ジアンとの出会いも残念な出来事から開始するのですが、特にジアンのシーンは青みがかった黒い色合いのシーンで北野武さんの映画に似た雰囲気があります。とにかく淡々としているので、我慢どころですが、あきらめずに見てもらいたいです!
このドラマでおじさんたちに医師、弁護士、事業家のようなきらきらとした職業を持っている人はおらず、失礼ながらイケメンも登場しません(借金取りのグァンイル除く)。主人公ドンフンは3兄弟で、長男は20年働いた会社をリストラされ、借金を作って起業するも失敗し、妻とは別居中、3男は元映画監督であったが、売れることなく実家に居候。母親が誇れる2男のドンフンも実は家族を持ちつつも妻との関係は今一つ、仕事でもなかなかうまくいかない。自分の気持ちを胸に押し込む性格であるドンフンは人生に対してもあきらめが漂う、普通のおじさん。けれども、人間に対する温かい心を持った街にあふれる普通のおじさんたちがかっこいいな!と思わされる物語です。
作品中は北野武さんのセリフ、「誰も知らない」「ノッティングヒルの恋人」「プリズン・ブレイク」「ブリジットジョーンズの日記」など他作品がしばしば登場します。作者は古今東西ありとあらゆる映画、ドラマを観あさっているのではないでしょうか。名言、言葉や映像やイメージが埋蔵されていて、このドラマで表現しようとするとき、そのストックの中から何かがふつふつと湧き上がって素晴らしい作品へと昇華しているようです。
日本のドラマは1クール1話CM込みの60分の制限があり、どうしても無駄なく効率的に話が進みますが、1話80分だからこそ、一見無駄に見える設定やシーンが伏線となっていて、最終話に向けて1本の線につながる瞬間がたまらないドラマです。
もっと早く観ておくべきドラマであったと反省しているのと同時に、自分と同じように、見るのを躊躇っているかたにはぜひお勧めしたいドラマです。
ところで、ドンフン役のイ・ソンギュンさんの声が素敵すぎてクラクラしました。
おじさんの声は当ドラマでは重要になるので、イ・ソンギュンさん以外の配役は考えられません。
!!ここからはネタバレありになります!!
ジアンはドンフンを盗聴する過程で、会社で見せる無期懲役囚のような姿とは違って、温かい心をもった誠実な人であることを知ります。決してジアンに恥をかかせることがない、ジアンをかわいいとも、会社の仕事振りを色眼鏡で見ず公平にジャッジし、仕事ができるとも言ってのける、とっても素敵な男性です。自分を大切に扱ってくれる思いやりがあり、ジアンをありのまま受け止め包み込んでくれる、無神経ではない、これまでの人生で出会ったことがなかった人です。
ドンフンが最後までジアンに対しては恋愛というよりも父性的な愛情を持って接しているところが好感が持てました。ジアンはドンフンを盗聴し始め、徐々に男性と父親を足して割ったような愛情を抱くようになり、命を懸けてドンフンを守る姿はなんていじらしい。親の愛も知らずに育ち、他人に対しても期待を求めず、大切にされた記憶もないジアンがどんな思いでドンフンを守ってきたかを、視聴者というよりもドラマの世界の当事者になったように見守りたくなる感覚に陥るのは、脚本家や監督の腕に参りましたとしか言いようがないです。
一方、ドンフンも弱点がありました。ドンフンは兄弟のこと、親のこと、仕事のことで手一杯、妻に対しては十分な愛情を注ぐ余裕がなかった。妻・ユニはどんなに努力してもドンフンの地元・家族になじむことができず、自分の家族がどこにあるのか?が分からず寂しさを感じている。そこに、ユニはジュニョンと不倫をしてしまう。不倫事態は許されるべきことではないけれど、ジュニョンには自分が必要だと感じたユニが一線を越えてしまう経緯は人は愛を求められずにいられないこと、ドンフンにも不器用な人間臭さがあること、ユニが一方的に攻められていないところが良かった。
ドンフンの兄弟、オンマ、地元の友達もみんなそれぞれに悩みを抱えて生きていて、決してスマートさはない。中年になって、いろいろと夢に折り合いをつけなければならないこともわかっている。
社会的に誇れる経歴・能力はない、けれど毎日を道理をわきまえた生き方をしている姿がそこにある。
困ったときは助け合い、時にはそれも辛いことがあるけれど、それは相手を思うからこそ。
このドラマをみてなぜ感動の涙を流すのか?と聞かれれば、「無償の愛」に尽きるのかなと。
ジアンは愛する人のためには捨てて、死んでゆくことも厭わない、どこまでも純粋な女です。
はじめはジフンに対して食事を奢るように要求していたのが、いつのまにか何一つ求めなくなった。心の裡にあるのは、ただ一つ。ジフンの幸せだけ。
混沌とした時代だからこそ、欲望やエゴと対極に位置する美しい世界に胸を打つのかなと。
ジアンのおばあさんが亡くなった時も、ドンフンの友達が葬儀に参列し、楽しくサッカーを楽しむ。
相手を思って盛大に送り出したいという、見返りを求めない長男の粋な計らいに涙します。
好きなシーン(ネタバレあり)
好きなシーンがありすぎるので、ちょくちょく追加するかもしれません!
その1
映画館でジアンに「電話して」とスマホに呼びかけるシーン
盗聴されていた事実を知り、行方が分からなくなったジアンに電話してほしいと頼むシーンは、一刻も早く見つけて会いたい気持ちが抑えきれないように見えます。

その2
3兄弟のオンマがユニに対する本音をこぼしたシーン
好きというよりも、強烈な場面でした。
オンマはドンフンの妻・ユニが弁護士さんになり、ドンフンが見劣りして見えることを憂いていました。それに対して母親の愛は歪み、強烈だと3男に茶化されます。うるさい!と追い払うオンマですが、そうはいっても、オンマの誕生日会で、ユニが率先してお手伝いを申し出ると、お仕事して疲れているから座っててとユニを気を遣うオンマが、なんとも言えませんでした。オンマが気を遣うことで、お客様扱いされているユニは家族となじめない寂しさを覚える場面です。母親の息子に対する無償の愛ゆえに生み出されたシーンです。
その3
ドンフンとジアンの食事シーン
ドンフンを気にせず自分のペースで食事をがっつきながら食べるジアン。ジアンにとっては食事は栄養摂取のためだけの時間のようです。徐々に、ドンフンとペースを合わせながら食事を楽しむことを覚え、後半、食事よりもドンフンと楽しく会話するのが楽しそうに見えるのが、素敵でした。
韓国では一人で食事するのは寂しさの極みとして表現することがあります。
(最近は一人飯ブームがあり状況は徐々に変わりつつある)
序盤はアルバイト先の残飯をこっそり持ち帰って暗い部屋で食べ、会社の給湯室でくすねた粉スティックコーヒー3本をプラスティック製のグラスにお湯で溶かして飲むのがささやかな一日の締めくくり。コーヒーカップが一度も登場しないので、生活を楽しむ余裕はない。生きるのに必死さが伝わる切ない場面です。
中盤、借金取りのグァンイルがドンフンとジアンが二人で食事するシーンを見つめる対照的な状況を広角に写しています。二人が仲良く睦まじく1枚の絵になるようなアングルでした。グァンイルは寒くて暗い外からそれを見る、二人はキャンドルが灯る温かい部屋の中。グァンイルはその中に入る隙はない。グァンイルはジアンが離れてしまうことが寂しかったのだろうと思わせる場面です。
その4
15話でドンフンがジアンを見つけた時、ジアンを見て胸がえぐられるような表情
胸がつぶされるようなシーンでしたね。感情を抑えるのに必死で、平静を装うドンフンが良かったです。ここでジアンがドンフンに対する愛情をぶつける涙ぐましい場面です。ジアンはドンフンに幸せになってほしいと心から思い、自分なりに行動を起こしていました。ドンフンに幸せになるには自分がここから立ち去ってしまわなければならないと。それを知ったドンフンはお互いに幸せになろうと決心し、新たな人生を歩むきっかけにになるのです。
ドラマ内の韓国語レベル
韓国語学習者に向けてのドラマ内の韓国語レベル感をお伝えします。
主人公のドンフンが働く建設会社内では、会長、社長、上司に対する尊敬語、同僚、部下、家族、気心しれた仲間に対する丁寧語やパンマルなど、1ドラマ内で豊富な表現を学ぶことができます。現代劇なので、実社会で通用する言葉、ビジネス会話も満載です。主人公は3兄弟、妻、息子、義理の姉、など韓国の複雑な家族の呼称が知れます。生きた台詞ばかりなので、韓国語学習の教科書ドラマの殿堂入りとなりました。
教科書よりもドラマのセリフをネイティブスピードについていけるまで練習する方がよいなと思い、ネット上にある台本を見つけては繰り返して練習しています。話が進むにつれてジアンのセリフが優しくなっていくのが微笑ましい限りです。

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